ポスト資本主義を探る #6 地方で働くことは、経済的に不利なのか?

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この連載の最初に、地元の優秀な学生に、地元で働くことを勧めてよいのだろうか、と書きました。

都市部と地方には給与水準の差があります。地元で働くより、名古屋や東京へ出た方が、その人にとってよい選択なのではないか。地元の企業と若い人をつなぐサービスを作りながら、私はそんな疑問を持っていました。

ただ、ここまで考えてきて、比較の置き方自体が少し違っていたのではないかと思うようになりました。

比べるべきなのは、「都市部で働くか、地方で働くか」だけではありません。それぞれの場所で、どんな仕事と暮らしを作れるのかまで含めて考える必要があるのではないか。

都市部へ出ることが、自然に見える

資本主義の中では、人とお金と情報が集まる場所に、さらに仕事や機会が集まります。仕事が集まれば人が集まり、人が集まれば、また新しい仕事や文化が生まれる。

日本では、東京をはじめとする大都市圏に、その多くが集中しています。大学、企業、専門職、文化、情報、そして人との出会いです。

都市部には、地方では得にくい仕事や学び、人との出会いがあります。私自身、東京で5年以上暮らし、そこで得た経験やつながりが、いまの仕事や可茂IT塾にもつながっています。

一度都市部へ出て、多くの人や情報、仕事に触れることは、その人の選択肢を広げる大きな機会になり得ます。

都市部で働く方が、経済的に有利とは限らない

都市部で働けば、地方より高い収入を得られる可能性は高まります。しかし、家計に実際にどれだけ残るかまで見ると、違う結果が見えてきます。

国土交通省の「都道府県別の経済的豊かさ」に関する試算では、都道府県ごとの中央世帯について、可処分所得から基礎支出を引いた家計の余力を比較しています(*1)。ここでいう中央世帯とは、2人以上の勤労者世帯のうち、年間収入が上位40%から60%にあたる世帯です。

この試算では、可処分所得は東京都が全国1位ですが、食費や住居費などの基礎支出を引いた後の余力では16位。岐阜県は、この余力で全国1位でした。

第3回では「お金で測るなら、地方は割を食っている」と書きました。しかし、中央世帯に限れば、収入の額では東京が上でも、暮らすための支出を引いた後に残るお金は岐阜の方が多い。少なくとも、この指標では、「お金で測れば地方が不利だ」とは言えません。

そして、この支出の少なさには、単なる物価の差だけでなく、市場で買わずにまかなわれているものも影響しているのかもしれません。家族や地域との関係の中で得られるものは、値段がつかない一方で、家計から出ていくお金を減らします。

だとすれば、第5回で書いた「値札のつかない経済」は、金銭的な豊かさとは別に存在するだけではありません。値札のつかない経済が、家計の金銭的な余力として表面に現れている可能性があります。

見える減収と、見えにくい暮らし

それでも、実際に地方で働くことを考えるとき、最初に目に入るのは年収の減少です。

パーソル総合研究所の調査では、地方移住に関心がある人のうち、「減収は考えられない」と答えた人は全体で27.4%、20代では46.7%に上ります(*2)。

年収は求人票に載り、ひとつの数字で比較できます。一方で、支出を引いた後にどれだけ余力が残るのか、通勤時間や住環境がどう変わるのか、どんな人とのつながりがあるのかは、同じようには見えません。

見えるのは年収の減少で、見えにくいのは暮らし全体の変化です。中央世帯の余力では岐阜が全国1位でも、給与額が下がる選択は、経済的に不利なものとして受け止められます。ここでも、比較しやすいお金の数字が強い力を持っています。

年収という数字に対抗する最もわかりやすい方法は、賃金を上げることです。ただ、それだけでは、結局は同じものさしの上で競うことになります。

時間の自由や仕事の意味など、働く場がつくる価値がある。一方で、住まいや人とのつながり、市場で買わずにまかなえているものなど、地域の中で生まれる価値もあります。

会社と地域が、それぞれの価値を別々に語るのではなく、一つの暮らしの選択肢として一緒に見えるようにできれば、年収だけではない形で、地元で働くことを選べるようになるのかもしれません。

どこで働くかを、本当に選べているか

都市部を選ぶ理由は、年収だけではありません。やりたい仕事に就きたい、専門性を高めたい、多くの人や情報に触れたい。都市部には、そうした希望に応えられる機会が実際に集まっています。

ただ、仕事を選ぶことは、同時に、その場所での暮らしを選ぶことでもあります。仕事内容や年収、企業規模は比較しやすい一方で、暮らすために必要な支出、使える時間、人とのつながり、その地域で得られるものは、同じようには見えません。

そう考えると、地元の企業と若い人をつなぐことの意味も、最初とは少し違って見えます。若い人を地元に残すためではなく、地元で働くことで、どんな仕事と暮らしを作れるのかを、一つの選択肢として見えるようにするためです。

そのうえで、都市部へ出るのか、地元に残るのかは、本人が選べばいい。会社がつくる仕事の価値と、地域の中で生まれる暮らしの価値が一緒に見えるようになって、初めて、それぞれの場所を比べられるのだと思います。

ポスト資本主義を考えるというのは、お金を無視することではありません。お金の力を認めながら、それだけでは測れないものも、選択肢の中に戻していくことです。

年収や仕事内容だけではなく、支出を引いた後に残るお金、そこで得られる経験、使える時間、人とのつながりまで含めて、地元で働くことでどんな暮らしを作れるのかを見えるようにする。会社と地域が一緒になって、そこまでを一つの選択肢として示せるとよいのだと思います。

ここまで6回書いてきましたが、この連載はいったんここで立ち止まります。ここから先は、もう少し学び、実際に動いてみます。その中で見えてきたことがあれば、また書きたいと思います。


参考

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