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- ポスト資本主義を探る #4 足場は、いくつあるか?
前回の最後に、こんなことを書きました。お金で測れない価値を、お金にしないまま、ちゃんと「ある」ものとして受け渡しできる方法はないのか。 ひとつの見立てに辿り着いたので、今回はその話を書きます。
前回、可茂IT塾のSlackの話を書きました。誰かが質問を投げると、誰かが答える。そこに対価の計算はない、という話です。
このやりとりを、もう少しよく見てみます。対価の計算はないのですが、実は、何も残っていないわけではありません。誰がよく答えてくれる人なのか、メンバーはなんとなく全員知っています。アプリで記録しているわけでも、ポイントが貯まるわけでもないのに、ちゃんと覚えられている。そして「あの人にはお世話になっているから」という感覚が、次の何かにつながっていく。
つまり、お金で測れない価値の受け渡しは、記憶と評判がやっているのです。
考えてみれば、こうした仕組みは昔からありました。お金が隅々まで行き渡る前の村や共同体では、誰に助けられたか、誰が困っているかが人々の記憶に残り、次の助け合いにつながっていた。
だから、前回の問いへの答えは「新しい仕組みを作る」ではないのかもしれません。仕組みは、顔の見える規模の集まりの中に、もうある。必要なのは、記憶がちゃんと機能するサイズの集まりに、属していることなのではないか。
ここで、お金との決定的な違いに気づきます。
お金は、どこでも使えます。東京で稼いだお金は美濃加茂でも使えるし、知らない店でも、初対面の相手にでも通用する。これがお金のすごさです。
一方、記憶と評判は、その集まりの中でしか通用しません。東京の会社で築いた信頼も、地元の集まりでは、そのまま通用するとは限りません。可茂IT塾の中で「あの人」になっていても、隣町では誰でもない。
つまり、お金なら一つの口座に貯めておけばいい。でも、記憶をもとにした財産は、集まりごとにしか貯まらない。
だとすれば、持ち運べないなら、いくつも持っておけばいい。小さな集まりに、複数、属しておくことです。
第2回で、こう書きました。仕事も収入も暮らしも、すべてを一つのループに預けていると、そのループが自分を必要としなくなった瞬間に、全部が揺らぐ。そして「ループから切り離されても生きていける回路」を作れないか、と。
では、その回路は、一人の暮らしの中ではどんな形をとるのか。そう考えたとき、答えの一つになるのが、足場をいくつも持つことではないかと思っています。
会社という一つの所属に、収入も、人間関係も、自分の評判も、全部を預けている人がはしごを外されると、全部を同時に失います。でも、足場が五つある人は、一つを失っても、残りが支えてくれる。仕事のつながり、地元の集まり、趣味の仲間、家族、学び合いの場。それぞれの中で「覚えられている」ことが、お金とは別の形の蓄えになっている。
東日本大震災の前から宮城県岩沼市の高齢者を調査していた研究では、人とのつながりが豊かなほど、震災後の健康リスクが抑えられる傾向が示されました。また、仮設住宅へまとまって入居することで、それまでのつながりが維持されたことや、震災後に近所づきあいが生まれた人では、うつ症状の悪化が抑えられたことも報告されています(*1)。
非常時やその後の生活で人を支えるのは、口座の残高だけではない、ということだと思います。
念のため書いておくと、これは「たくさんのコミュニティに登録しましょう」という話ではありません。
記憶をもとにした財産は、顔を出して、何かをギブして、覚えられて、初めて貯まります。つまり、時間がかかる。10個の集まりに薄く属するより、3つか4つの集まりでちゃんと「あの人」になっている方が、はるかに強い。SNSのフォローのように増やせるものではなくて、畑のように、通って世話をするものに近いと思います。
それと、小さな集まりは、生まれては消えるものです。一つひとつが永遠に続く必要はなくて、消えたらまた別の場に参加すればいい。そう思えること自体が、足場を複数持っていることの効能です。
最後に、地方の話に戻します。
顔の見える規模の集まりは、東京にも作れます。ただ、地方の方が、これをやりやすい条件が揃っている気がします。人の数が少ないぶん、同じ顔に何度も会う。地域の行事や消防団のような、好むと好まざるとにかかわらず属する場が、まだ残っている。物理的な距離が近くて、集まるコストが低い。
第2回で、地方は「出口を残しておいた場所」かもしれないと書きました。その出口の中身は、安い土地や近い食べ物だけではなくて、記憶が機能するサイズの集まりがまだ残っていること、なのかもしれません。
私自身、可茂IT塾、地元のつながり、地域の活動、東京の仕事、家族と、いくつかの足場の上に立っています。意識的にやってきたわけではありませんが、振り返れば、これに助けられてきた場面は多かった気がします。
参考
可茂IT塾ではFlutter/Reactのインターンを募集しています!一定以上のスキルをを習得した方には有給でのインターンも受け入れています。
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